帯状疱疹ワクチンの選び方——11年の有効性データと認知症リスク低下研究の最前線
帯状疱疹ワクチンの長期有効性を追った最終解析が、2025年にeClinicalMedicineに掲載されました。11年たっても有効率82%を維持するという結果でした。さらに同じ年、Natureに掲載された28万人規模の自然実験では、帯状疱疹ワクチン接種と認知症リスク低下との関連が示唆されました。ワクチンの役割が「帯状疱疹の予防」を超えて広がりつつあるかもしれません。
この記事では、日本で使える2種類の帯状疱疹ワクチン——シングリックスとビケン——の有効性・副反応・費用を比較しつつ、2025年4月から始まった定期接種制度と、認知症・心血管リスクとの関連を示唆する最新研究を整理します。
この記事のポイント
なぜ50歳を過ぎると帯状疱疹が急増するのか——免疫老化という視点
帯状疱疹は、子どものころにかかった水ぼうそう(水痘)のウイルス——水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)——が体内で再び活性化することで起こる疾患です。水ぼうそうが治った後も、VZVは脊髄の後根神経節や脳神経節に潜伏感染を続けています。何十年もの間おとなしくしているウイルスが、あるとき突然目を覚ますのはなぜでしょうか。
鍵を握るのが免疫老化(immunosenescence)と呼ばれる現象です。加齢に伴い、VZVに対する細胞性免疫——特にVZV特異的T細胞の数と機能——は50歳前後から低下が加速します。ウイルスを抑え込んでいた「免疫の見張り番」が手薄になることで、潜伏していたVZVが再増殖を始め、神経に沿って皮膚に到達し、帯状の水疱と痛みを引き起こします。
日本では年間約60万人が帯状疱疹を発症すると推定されています。50歳を境に発症率は急上昇し、80歳までに約3人に1人が経験するとされています。合併症として最も問題になるのが帯状疱疹後神経痛(PHN)で、皮疹が治った後も数か月から数年にわたって痛みが続くことがあります。
免疫老化は避けられない生理現象ですが、ワクチンによってVZV特異的免疫を人為的に増強することはできます。ここからは、日本で使える2つの選択肢を見ていきます。
2種類のワクチンの仕組みと特性
日本で接種できる帯状疱疹ワクチンは2種類あります。
シングリックス(RZV:組換え帯状疱疹ワクチン)は、VZVの表面糖タンパク質gEを遺伝子組換え技術で作り、AS01Bアジュバントと組み合わせた不活化ワクチンです。AS01Bは強力なT細胞応答を誘導し、免疫老化が進んだ高齢者でも高い免疫増強効果を発揮します。2回接種が必要で、2か月間隔が標準です。
ビケン(弱毒生ワクチン)は、水痘ワクチンと同じOka株を高力価にした生ワクチンです。1回接種で済みますが、免疫が低下した方には原理上使えない——これが弱毒生ワクチン最大の制約です。
| シングリックス(RZV) | ビケン(生ワクチン) | |
|---|---|---|
| 種類 | 組換えサブユニット+AS01Bアジュバント | 弱毒生ワクチン(Oka株) |
| 対象年齢 | 50歳以上(+18歳以上の免疫抑制者) | 50歳以上 |
| 接種回数 | 2回(2か月間隔) | 1回 |
| 免疫抑制者 | 接種可能 | 禁忌 |
| 保管条件 | 冷蔵(2〜8℃) | 冷凍(−15℃以下) |
| 日本承認年 | 2018年 | 2016年 |
| 定期接種 | 対象(2025年4月〜) | 対象(2025年4月〜) |
なお、海外で使われていたもう一つの生ワクチンZostavaxは、米国では2020年から使用が終了し、EUでも2025年6月に販売承認が取り下げられました。WHOは2025年のポジションペーパーで、帯状疱疹ワクチンのエビデンスと推奨を整理しています。
有効性——臨床試験と長期追跡データ
シングリックスの有効性
シングリックスの主要臨床試験であるZOE-50では、50歳以上を対象にVE(vaccine efficacy:ワクチン有効率)97.2%が示されました。ZOE-70では70歳以上でVE 89.8%、両試験のプール解析では70歳以上のHZ予防VE 91.3%、PHN予防VE 88.8%と報告されています。
11年間の長期有効性
ZOE-LTFU(Long-Term Follow-Up)最終解析は、シングリックスの長期成績を示した最も重要なデータです。接種後11年間の全期間VEは87.7%。年ごとの推移をみると、初年度から高水準を保ち、8年目以降も84%超で安定していました。
11年で約16ポイントの低下は、ワクチン全般のなかでもきわめて緩やかな推移です。追加接種(ブースター)の必要性について、現時点では明確な推奨は出ていません。

ビケンの有効性と経年低下
Shingles Prevention Study(SPS)では、60歳以上のVEが年齢層によって大きく異なる結果でした。60代で64%、70代で41%、80代では18%。50〜59歳を対象としたZEST試験でもVE 69.8%にとどまり、若い年代でも7割に届きません。年齢が上がるほど効果が薄れる傾向が明確です。
長期追跡のデータはさらに厳しく、1年後67%だった防御効果が8年後には27%、10年後には15%まで低下しています。厚労省の審議会資料でも「5年後のビケンのVEは約4割」とされています。
日本のビケンを使った実臨床の後ろ向きコホート研究では、帯状疱疹予防のVEが27.8%(95%CI −29.8〜63.9%)と信頼区間がゼロをまたぐ結果でした。一方、PHN予防のVEは73.8%と推定されています。帯状疱疹の発症抑制については不確実性が残るものの、PHN予防には一定の効果がある可能性を示しています。
日本の実臨床データ
日本の実臨床データも出始めています。2025年にBMC Infectious Diseasesに掲載された研究では、シングリックス接種者のVEは85%(65歳以上では91%)でした。追跡期間は1.7年とまだ短いものの、国内での実効性が海外の臨床試験と整合する結果が得られています。
副反応——高い反応率をどう考えるか
シングリックスの副反応は、正直にいって軽くはありません。
| 項目 | シングリックス | ビケン |
|---|---|---|
| 注射部位痛 | 72.1% | 10〜30% |
| グレード3局所反応 | 17% | まれ |
| 全身症状 (倦怠感・筋肉痛等) | 43.4% | 10%未満 |
| 持続期間 | 2〜3日 | 1〜2日 |
| 重篤な副作用 | まれ | まれ(有意差なし) |
注射部位の痛みは7割以上、全身の倦怠感も4割超。ただし持続は2〜3日で、ほとんどの症状は自然に回復します。重篤な有害事象の発生頻度はビケンと差がありません。
この反応の強さは、AS01Bアジュバントが自然免疫を活性化し、強いT細胞応答を引き出していることの裏返しでもあります。免疫誘導の強さと副反応の強さは表裏一体の関係にあり、11年後も持続する防御力はこの強力な免疫応答によって支えられています。なお、米国65歳以上を対象とした市販後の観察研究では、シングリックス接種後42日以内のギラン・バレー症候群(GBS)リスク上昇が示されています(100万接種あたり絶対リスク6.59、FDAは過剰リスク約3例と説明)。日本のRMP(医薬品リスク管理計画)でもGBSは重要な特定されたリスクとして明記されています。頻度はきわめて低いものの、帯状疱疹・PHN予防という大きなベネフィットとのバランスのなかで認識しておくべき情報です。
免疫抑制者——生ワクチンが使えないとき
臓器移植後の免疫抑制療法中、血液悪性腫瘍の治療中、HIV感染症、自己免疫疾患に対する生物学的製剤使用中——こうした免疫抑制状態にある方は帯状疱疹のリスクが一般集団の数倍に上ります。にもかかわらず、ビケンは弱毒生ワクチンであるため禁忌。長らく予防手段がない状況が続いていました。
シングリックスは不活化ワクチンであり、免疫抑制者にも安全に接種できます。2021年のACIP推奨では、19歳以上の免疫不全・免疫抑制者へのシングリックス接種が正式に推奨されました。
造血幹細胞移植(HSCT)後の患者を対象とした試験ではVE 68.2%、血液悪性腫瘍の患者ではVE 80.4%が報告されています。免疫機能が低下した集団でこれだけの有効率が得られることは、ワクチンの臨床的価値として非常に大きい意味を持ちます。
接種タイミング(免疫抑制療法の開始前か、一定期間後か)は治療の種類や状態によって異なります。主治医と相談したうえでスケジュールを決めることが重要です。
日本の定期接種制度(2025年4月〜)と費用
2025年4月から、帯状疱疹ワクチンが日本で初めて定期接種に位置づけられました。シングリックス・ビケンのいずれも対象です。
対象者は、その年度内に65歳を迎える方です。加えて、60〜64歳でHIVによる高度の免疫機能障害がある方も対象になります。さらに2025〜2029年度の経過措置として、その年度内に70、75、80、85、90、95、100歳となる方にも接種機会が設けられています(100歳以上は2025年度に限り全員対象)。
| シングリックス | ビケン | |
|---|---|---|
| 定期接種(公費補助あり) | 約10,000円 x 2回 | 約4,000円 x 1回 |
| 自費接種(全額自己負担) | 約44,000円(2回合計) | 約8,000円 |
費用差は大きく、定期接種でもシングリックスは2回で約20,000円、ビケンは1回4,000円程度です。全額自己負担ではさらに差が広がります。一方、長期有効性のデータではシングリックスが圧倒的に優位であり、10年後にビケンの防御効果が15%まで落ちることを考えると、費用対効果の評価は単純な金額比較だけでは判断できません。
自治体によって補助額や手続きが異なるため、お住まいの市区町村の案内を確認してください。
2025年の新知見——認知症・心血管リスクとの関連
帯状疱疹ワクチン接種と、認知症や心血管イベントのリスク低下との関連を示唆する研究が2024〜2025年に相次いで発表されました。いずれも観察研究や自然実験であり、因果関係を確定するランダム化比較試験(RCT)はまだ行われていません。現時点では「関連が示唆されている段階」であり、これだけを理由に接種を決めるのは時期尚早です。

認知症発症リスクとの関連
2025年にNatureに掲載された研究は、ウェールズの28万人を対象とした自然実験です。帯状疱疹ワクチン(生ワクチン)の接種対象年齢が段階的に導入された制度変更を利用し、接種群と非接種群を比較しました。7年間の追跡で、新規認知症診断の絶対差が3.5ポイント、相対リスクで約20%の低下が示唆されています。
2024年のNature Medicineでは、シングリックスに焦点を当てた米国の研究が報告されました。シングリックス接種者は非接種者と比べて、認知症と診断されるまでの期間が17%延長(約164日)し、発症リスクが32%低下していました。
さらに2025年のCellに掲載された研究では、軽度認知障害(MCI)から認知症の診断、そして認知症関連死に至るまでの全段階で、ワクチン接種者のリスクと進行が抑制されていることが示されました。これらの研究に共通して、女性やアルツハイマー型でより強い関連が報告されています。
VZVの再活性化が神経炎症を引き起こし、それが認知機能低下の一因になるという仮説や、ワクチンによる免疫活性化が神経保護的に働くという仮説が提唱されていますが、メカニズムの解明はこれからです。
心筋梗塞・脳卒中リスクとの関連
2025年のClinical Infectious Diseasesに掲載された51万人規模の観察研究では、シングリックス2回接種群で入院を要する心筋梗塞リスクが28%、脳卒中リスクが42.5%低下していたと報告されています。
VZVの再活性化が血管炎を引き起こし、脳卒中や心血管イベントのリスクを高めることは以前から知られていました。ワクチンによるVZV再活性化の抑制が、間接的に血管イベントを減らしている——そう考えると整合性はあります。
繰り返しになりますが、これらはいずれも観察研究であり、因果関係を証明したものではありません。交絡因子の影響を完全に排除できていない点にも留意が必要です。ただ、複数の大規模研究が同じ方向を指していることは注目に値します。今後のRCTや長期追跡の結果を見守る必要があります。
対象者別の行動提案
65歳・定期接種対象の方へ
その年度内に65歳を迎える方、または経過措置の対象年齢に該当する方は、まずお住まいの自治体から届く案内を確認してください。シングリックスとビケンのどちらを選ぶかは、長期有効性・副反応・費用のバランスで判断することになります。持病や服用中の薬がある方は、かかりつけ医と相談したうえで決めるのが安心です。
なお、過去に帯状疱疹にかかったことがある方でもワクチンは接種できます。厚労省も「水痘や帯状疱疹にかかったことのある方でも定期接種の対象」と明記しており、米国CDCも既往者への接種を推奨しています。CDCは特定の待機期間は設けておらず、急性期を過ぎて皮疹が治まってから接種を検討してください。
私自身が外来で聞かれたら、特別な事情がなければシングリックスを勧めます。費用差は確かに大きいですが、10年後の防御力の差はもっと大きいからです。同じく定期接種の対象になっている肺炎球菌ワクチンとあわせて、接種スケジュールを確認しておくとよいでしょう。

免疫抑制状態の方・その主治医へ
免疫抑制状態にある方にとって、シングリックスは現時点で唯一の選択肢です。接種タイミングは免疫抑制療法の種類や状態によって異なるため、主治医との連携が欠かせません。臓器移植前や化学療法開始前にスケジュールを組めるケースもあります。
ビケン接種済みの方へ
過去にビケンを接種した方でも、シングリックスへの切り替えはCDCで推奨されています。ビケンの効果は年数とともに大きく低下するため、前回の接種から少なくとも8週間を空けたうえで、シングリックス2回接種への移行を検討してください。特に前回の接種後5年以上経過している場合は、防御効果がかなり低下している可能性があります。
帯状疱疹ワクチンの選び方に、唯一の正解はありません。長期有効性を重視するならシングリックス、費用や接種回数の負担を抑えたいならビケン——どちらにも理由があります。大切なのは、自分の年齢・健康状態・経済的な条件を整理したうえで、納得のいく判断をすることです。
認知症や心血管イベントのリスク低下との関連が示唆されていることは、帯状疱疹ワクチンの価値をさらに広げるかもしれません。ただし現時点では観察研究の段階であり、それだけを理由に接種を決めるのは時期尚早です。帯状疱疹そのものの予防——あの激しい痛みと、長引くPHNを防ぐこと——が、いまワクチンを検討する最も確かな理由です。迷ったら、かかりつけ医に相談してみてください。
高齢期に検討したいワクチンは帯状疱疹だけではありません。65歳の節目に同時に確認しておきたい 肺炎球菌ワクチン(PCV20/PCV21) や、60歳以上の任意接種が始まった RSウイルスワクチン(高齢者向け3製剤の比較) も合わせて検討対象にしてみてください。
参考文献
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よくある質問
帯状疱疹ワクチンは何歳から打てますか?定期接種ですか?
シングリックスとビケン、どちらを選べばいいですか?
シングリックスの副反応はどの程度ですか?
帯状疱疹ワクチンの費用はいくらですか?
帯状疱疹ワクチンを打つと認知症のリスクが下がるのですか?
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