肺炎球菌ワクチン、2026年4月から何が変わった?——PCV20定期接種開始と選び方ガイド
肺炎は高齢者にとって重要な死因のひとつであり、厚生労働省の人口動態統計でも主要な死因として上位に位置しています。成人の市中肺炎で最も多い原因菌が肺炎球菌で、報告によっては原因菌の2〜3割前後、あるいはそれ以上を占めるとされています。その肺炎球菌を予防するワクチンに、2026年4月から大きな変化がありました。
2025年8月には新しい結合型ワクチン「キャップバックス」(PCV21)が国内で承認され、2026年4月からは定期接種のラインナップも切り替わっています。「前に何か打った気がするけど、もう一度打つ必要があるの?」——こうした疑問を持つ方が増えています。
変更になったポイントはひとつです。2026年4月以降、高齢者肺炎球菌ワクチンの定期接種はPCV20(プレベナー20)に統一されました。そして任意接種として、PCV21(キャップバックス)という新しい選択肢も加わっています。ニューモバックスを5年ごとに打ち替えていた時代は、幕をおろすことになります。
この記事のポイント
肺炎球菌感染症とは
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は、肺炎・副鼻腔炎・中耳炎といった「よくある感染症」の原因菌として広く知られています。一方で、血流に侵入して全身に広がる「侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)」——菌血症・髄膜炎・敗血症——は、特に高齢者では死亡率の高い重篤な疾患です。
加齢とともに免疫機能は低下します。65歳を超えると、肺炎球菌に感染した際の重症化リスクが若い世代より高くなります。糖尿病・慢性心疾患・慢性肺疾患・免疫抑制状態があると、リスクはさらに高まります。
日本では2023年に全国で1,959例のIPDが届け出られており、患者の約7割を65歳以上が占めています。高齢者で負担の大きい感染症であり、髄膜炎を合併した場合は予後がさらに悪化します。
肺炎球菌には90種以上の血清型(菌の表面を覆うカプセル状の構造の違いで分類)があり、そのすべてをカバーするワクチンは現時点では存在しません。ワクチンは「頻度の高い血清型」を選んで免疫を作る仕組みで、カバーする血清型の数と種類が製品間の大きな違いのひとつです。
定期接種はなぜ何度も変わった?
高齢者の肺炎球菌ワクチンをめぐる日本の制度は、ここ数年で何度も変わっています。
2014年、日本では65歳以上の高齢者を対象に多糖体ワクチン(PPSV23/ニューモバックス)が定期接種として導入されました。5年ごとに対象年齢(65・70・75歳…)が設定され、段階的に経過措置が進められました。
しかしPPSV23には課題がありました。多糖体ワクチンは「T細胞に頼らない免疫誘導」の仕組みであり、免疫の記憶が作られにくいという特性があります。そのため抗体価が年月とともに低下しやすく、実臨床でのIPD予防効果も限定的でした。
英国・ウェールズの大規模観察研究では、PPSV23のIPDに対する実臨床VE(vaccine effectiveness:ワクチン有効率)は全体で27%にとどまり、接種後2年未満で41%だったものが、5年以降には23%以下まで低下する効果の経年低下(waning)が確認されています。これが「5年ごとに打ち直す」方針が取られてきた背景のひとつです。
こうした状況を変えたのが、結合型ワクチンの大規模無作為化比較試験の結果です。PCV13(プレベナー13)を65歳以上の約8万4,500人に投与したCAPiTA試験では、ワクチン対応型の市中肺炎(VT-CAP)に対し46%、侵襲性肺炎球菌感染症(VT-IPD)に対し75%の有効率が示されました。結合型ワクチンが高齢者のIPD予防に有効であることを、最も信頼性の高い研究デザインである大規模無作為化比較試験(RCT)で証明した試験です。
この結果を受けて、国際的には「結合型ワクチン(PCVシリーズ)」への移行が加速します。日本でも2019年頃からPCV13が高齢者の任意接種として選択できるようになり、2021年にはPCV15(バクスニューバンス)も承認されました。さらに2024〜2025年にかけてPCV20(プレベナー20)が承認・定期接種化の手続きが進められてきました。
2026年4月、定期接種がPCV20に切り替わります。PCV20は結合型ワクチンであり、T細胞を介した免疫誘導によって免疫記憶が形成されます。そのため多糖体ワクチンのような定期的な打ち替えは不要とされており、「1回接種で完結」という形になりました。
3つのワクチンを比較する
2026年4月現在、高齢者が接種を検討できる主な肺炎球菌ワクチンは3種類です。
| PCV20(プレベナー20) | PCV21(キャップバックス) | PPSV23(ニューモバックス) | |
|---|---|---|---|
| ワクチンの種類 | 結合型 | 結合型 | 多糖体 |
| カバー血清型数 | 20種 | 21種 | 23種 |
| 定期接種 | ✅ 対象(公費) | ❌ 任意のみ | ❌ 対象外 |
| 接種回数 | 1回 | 1回 | 原則1回(以前は追加あり) |
| 免疫記憶の形成 | あり | あり | 形成されにくい |
| 日本承認・発売 | 2024年承認 | 2025年8月承認・10月発売 | 1990年代〜 |
| 接種ルート | 筋肉内注射 | 筋肉内注射 | 皮下注射または筋肉内 |
血清型のカバー数は多いほどよさそうに見えますが、重要なのは「実際に成人のIPDを引き起こしている血清型をどれだけカバーしているか」という点です。日本の成人肺炎球菌性肺炎の血清型分布を調べたJPAVE2研究(2019-2022年、国内成人583例)では、PCV20が対象血清型の43.7%をカバーするのに対し、PCV21は71.9%をカバーすると算出されています。
PCV21はPCV20がカバーしていない血清型(15A・16F・23A・35Bなど)を追加対象としており、日本で多い血清型35B(全体の12.0%)・15A(7.7%)はPCV20の対象外です。米国ACIPの推奨資料でも同様の傾向が示されています。ただし数の差(20種 vs 21種)よりも、ラインナップに含まれる血清型の質と実際の疫学的分布が重要です。
PPSV23は血清型数こそ23種と多いですが、結合型ワクチンと比べた際の免疫誘導の仕組みの違いもあり、2025年の最新ガイドラインでは一般の65歳以上成人への追加接種は原則推奨されなくなりました(高リスク者では個別判断)。
PCV20は承認のための主要な臨床試験で、PCV13に含まれる13血清型すべてに対して同等以上の免疫応答を示し、追加7血清型についても良好な結果が得られています。
PCV21についても、ワクチン接種歴のある50歳以上を対象としたSTRIDE-6試験で21血清型すべてに良好な免疫応答が確認されています。いずれもこれまでは「免疫が十分につく」という間接的な根拠での承認でした。
2026年5月、PCV20の実臨床効果データが初公表
承認時点では、PCV20が実際にどれくらい肺炎や入院を減らすのかは未知数でした。この空白を埋めたのが、2026年5月にLancet Infectious Diseasesに掲載されたMilesらの研究です。米国Medicareに登録された65歳以上の約1,650万人を、2022年7月から2024年6月まで追跡した観察研究で、PCV20を接種した約200万人と未接種の約1,600万人の発症率を比較しました。
調整後のワクチン有効率(VE:接種で何%発症リスクが下がるか)は次の通りです。
数字を生活感覚に落とし直すと、1万人がPCV20を打って1年経過したとき、肺炎と診断される人がおよそ76人少なくなる計算です。下気道感染症(LRTI:肺炎を除く気管支炎・気管支肺炎などを含む下気道の感染症)の絶対リスク減少も10万人年あたり636件と、初年度から目に見える効果が出ています。侵襲性肺炎球菌感染症の有効率25.6%は、CAPiTA試験のPCV13(VT-IPD 75%)より低く見えますが、CAPiTAは「ワクチン対象の血清型」だけを分母にした数字で、Miles研究は「あらゆる血清型」を分母にしている点が違います。守備範囲を全血清型に広げて25.6%なら十分な公衆衛生インパクトと評価されています。
ただし、この研究は製薬会社ファイザーが資金を提供した観察研究です。RCTほど因果関係を強く言えるデザインではなく、結論の解釈には利益相反開示を踏まえた慎重さが要ります。それでもPCV20承認後初めての実臨床VEデータであることに変わりはなく、2026年4月から日本で定期接種化された判断の妥当性を、後追いで支える材料となりました。
現時点でPCV20・PCV21の直接比較試験はなく、最終的な選択は接種歴・基礎疾患・費用負担・アクセスのしやすさを総合して判断することになります。
誰が、いつ、どこで
定期接種の対象者
2026年4月以降の高齢者肺炎球菌ワクチン定期接種の対象は以下のとおりです。
- 65歳になる年度(4月1日〜翌年3月31日)の方
- 60〜64歳で、心臓・腎臓・呼吸器機能に一定程度以上の障害がある方、またはHIVによる免疫機能障害がある方
定期接種に使用できるワクチンはPCV20(プレベナー20)のみです。PCV21・PPSV23は定期接種として使用できません(任意接種は可能です)。
定期接種は原則、生涯1回です。ニューモバックス時代にあった70・75・80歳…といった5歳刻みの経過措置は終了しており、PCV20の定期接種対象は65歳になる年度の方に限られます。
費用・接種場所
定期接種の場合は自治体から公費補助があり、自己負担は数千円程度(例:横浜市では3,000〜5,000円程度)です。かかりつけ医・内科クリニックなど、予防接種を実施している医療機関で接種できます。接種時期については自治体から案内が届きます。
任意でPCV21を選ぶ場合は全額自己負担となり、費用は1万円台程度が多い見込みです。
接種間隔
以前にPPSV23(ニューモバックス)を接種した方でも、最終接種から1年以上経過していればPCV20またはPCV21への切り替えが可能です。PCV13以前の接種歴がある場合の接種間隔については、担当医と相談してください。
あなたに合った選択は?
65歳になる年度の方(定期接種の対象)
自治体から届く接種案内を確認してください。PCV20を定期接種として受けることができます。費用の一部が公費で補助されます。
任意でPCV21を選ぶことも可能ですが、その場合は定期接種の権利を使わずに自費での接種となります。費用差・カバー率の違い・自分の健康状態を踏まえて、かかりつけ医と相談するのが現実的です。
65歳以上で、まだ肺炎球菌ワクチンを打っていない方
65歳の定期接種時期を過ぎた場合、公費の定期接種は受けられません。ただし、任意接種(全額自己負担)としてPCV20またはPCV21を接種することはできます。ガイドラインでも65歳以上の未接種者への接種を推奨しています。高齢になるほどIPDのリスクは高まり、入院や重い後遺症を防ぐうえでワクチンは有効な手段です。定期接種の時期を過ぎていても、接種する価値は十分にあります。
すでにニューモバックス(PPSV23)を打ったことがある方
以前は「5年後にニューモバックスを打ち直す」という方針がとられていましたが、最新ガイドライン(2025年9月)でこの考え方は変わっています。最終接種から1年以上経過していれば、PCV20またはPCV21への切り替えが推奨されます。再度のPPSV23追加接種は「原則として選択肢としない」と明記されています。なお、免疫不全や脾臓摘出後などの高リスク者では、PCV後にPPSV23を追加する連続接種の選択肢が残っており、担当医への相談が必要です。
肺炎球菌は特別な菌ではありません。健康な人の鼻やのどにも常在している、身近な細菌です。ただ、加齢や基礎疾患によって免疫が弱まると、それが肺炎や菌血症・髄膜炎といった重い感染症へつながります。ワクチンは、そうした重症化のリスクを事前に下げておくための手段です。
「ワクチンの種類が多くてどれを選べばいいかわからない」という声をよく聞きます。PCV20・PCV21どちらも、重篤なIPDを完全にゼロにするものではありません。それでも、65歳以上では接種するメリットが接種しないリスクを上回るというのが、現行ガイドラインの立場であり、私も同じ考えです。
2026年4月以降の方針はシンプルです——「定期接種(65歳)であればPCV20を1回、任意接種ならPCV21も選択肢」。以前のような5年ごとの打ち替えは不要になりました。選択肢が増えたいまだからこそ、かかりつけ医と一度話してみてください。自分に合った選択を一緒に考えましょう。
肺炎球菌ワクチンをはじめとするワクチン接種は、感染症の予防だけでなく、薬剤耐性菌(AMR)の拡大を抑えるという観点からも重要です。同じく2026年4月から定期接種が始まったRSウイルスワクチンや、50歳以上が対象の帯状疱疹ワクチンとあわせて、接種スケジュールを確認してみてください。なお、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンはどちらも不活化ワクチンであり、同じ日に接種できます。左右の上腕など別々の部位に打ちます。
参考文献
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MSD株式会社. 成人に特化して設計された21価肺炎球菌結合型ワクチン「キャップバックス®筋注シリンジ」新発売のお知らせ. 2025年10月29日. https://www.msd.co.jp/news/product-news-20251029/(参照日: 2026-04-01)
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よくある質問
肺炎球菌ワクチンの定期接種は何歳が対象ですか?
2026年4月から肺炎球菌ワクチンは何が変わりましたか?
以前ニューモバックスを打ったことがある場合、PCV20に切り替えたほうがいいですか?
PCV20とPCV21はどう違いますか?
肺炎球菌ワクチンの費用はいくらですか?
肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンは同時に打てますか?
PCV20って本当に効くの?臨床効果のデータはありますか?
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