RSウイルスワクチン 60歳以上の選び方|3種類の違いを専門医が比較
RSウイルスは子どもの病気——そう思っている方が多いかもしれません。でも実際には、60歳を超えると再び重症化リスクが上がる感染症です。インフルエンザと同じように、肺炎や入院につながるケースも少なくありません。
2023〜2025年にかけて、日本でも成人向けのRSウイルスワクチンが3製剤承認されました。GSKのアレックスビー、ファイザーのアブリスボ、モデルナのエムレスビア。いずれも1回接種です。
この記事では、3製剤の違いを概観したうえで、臨床データが比較的そろっているアレックスビーとアブリスボを中心に解説します。
この記事のポイント
RSウイルスと高齢者——見えにくいリスク
RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は、乳幼児の入院原因として広く知られています。ただ高齢者にとっても他人事ではありません。加齢による免疫機能の低下に加え、慢性心肺疾患や糖尿病などの基礎疾患が重なると、肺炎や心不全の増悪を引き起こすことがあります。
米国CDCの現行推計では、50歳以上で年間11万〜18万人がRSウイルスにより入院するとされています。日本での大規模な疫学データは限られていますが、冬季の高齢者入院例にRSウイルスが相当数含まれていると考えられています。
特に問題なのは「見えにくさ」です。症状がインフルエンザや他の呼吸器感染症と区別しにくく、RSウイルスの検査が日常診療で広く行われているわけでもありません。診断されないまま「長引く風邪」として見過ごされている例も多いと考えられています。
3つのワクチン——仕組みと違い
RSウイルスのワクチン開発は、1960年代の失敗から半世紀以上を要しました。ウイルス表面の構造(プレフュージョンFタンパク質)を標的にする技術が確立され、2023年以降、3つの製品が相次いで実用化されています。
| アレックスビー | アブリスボ | エムレスビア | |
|---|---|---|---|
| メーカー | GSK | ファイザー | モデルナ |
| 技術 | タンパクサブユニット | タンパクサブユニット | mRNA |
| アジュバント | AS01E(あり) | なし | なし |
| 接種対象 | 60歳以上 * | 60歳以上 | 60歳以上 |
| 接種回数 | 1回 | 1回 | 1回 |
| 日本承認 | 2023年9月 | 2024年3月 | 2025年5月 |
| 持続性データ | 3シーズン分 | 2シーズン分 | 蓄積途上 |
3製品とも、RSウイルスが細胞に侵入する前の構造を標的にしている点は共通です。違いはワクチンの「土台」の技術にあります。
アレックスビーとアブリスボはタンパクサブユニットワクチンで、ウイルスのタンパク質そのものを抗原として使います。アレックスビーにはアジュバント(AS01E)という免疫増強剤が含まれており、少ない抗原量で強い免疫を引き出せる一方、副反応が出やすくなる面もあります。アブリスボにはアジュバントは含まれていません。
エムレスビアはコロナワクチンと同じmRNA技術を応用した製品です。
有効性——臨床試験のデータから
それぞれ別の臨床試験で評価されており、判定基準が異なるため数値の直接比較はできません。ただし、いずれも初年度に80%台の予防効果が報告されています。
アレックスビー(AReSVi-006試験)は約25,000例を対象とした国際共同試験で、日本人1,038例も参加しています。重症の下気道疾患に限ると予防効果は94%まで上がります。ただし2シーズン目にかけて効果はやや低下し、累積有効率は約67%でした。追加接種による上乗せ効果もなかったと報告されています。
アブリスボ(RENOIR試験)は2シーズン通算で約82%の有効率を維持しており、経時的な低下が小さい傾向です。ただし試験デザインが異なるため、この差をそのまま製品の優劣と結びつけることはできません。
これらの試験結果は、米国の複数の実臨床研究でも裏付けられています。入院予防効果75〜80%という結果が一貫して報告されており、試験環境の数値と大きなズレはありません。
なお、エムレスビア(ConquerRSV試験)の初年度有効率も同水準ですが、2シーズン目以降の持続性データはまだ報告されていません。
安全性——副反応のプロファイル
両ワクチンとも、副反応の多くは軽度〜中等度で、数日以内に自然に回復します。
| 副反応 | アレックスビー | アブリスボ |
|---|---|---|
| 接種部位疼痛 | 60.9% | 11% |
| 疲労・倦怠感 | 33.6% | 16% |
| 筋肉痛 | 28.9% | — |
| 頭痛 | 27.2% | — |
| 発熱(38℃以上) | — | 1% |
※アレックスビーはAReSVi-006試験、アブリスボは国内3学会見解(2025年12月)に基づく数値。データソースが異なるため直接比較はできません。「—」は該当データソースに記載なし。
アジュバントを含むアレックスビーは全身反応(倦怠感・発熱など)が出やすい傾向があります。接種翌日は体調不良を感じる方もいるため、予定に余裕を持った日程で接種するとよいでしょう。
外来では「インフルエンザワクチンより反応が少し強かった」とおっしゃる方もいれば、「ほとんど気にならなかった」という方もいます。個人差が大きい印象です。
ギラン・バレー症候群(GBS)リスクについて
市販後の安全性調査で、RSVワクチン接種後にギラン・バレー症候群(GBS)が通常よりやや多く報告されていることがわかりました。頻度は100万回接種あたり約11件で、非常にまれではあります。
因果関係はまだ確立されていませんが、FDAは2025年1月にアブリスボ・アレックスビーの両製品の添付文書にGBSに関する注意喚起を追加しました。GBSの既往がある方や神経疾患を持つ方は、接種前に主治医に相談してください。
接種の実務情報
3製剤とも1回接種の任意接種で、費用は全額自己負担です。金額は医療機関ごとに異なるため、事前に問い合わせておくとよいでしょう。接種時期はRSウイルスの流行が始まる前の9〜11月ごろが推奨されています。
妊婦向けアブリスボは2026年4月から定期接種(公費)になりましたが(詳しくはこちら「RSウイルスワクチン「アブリスボ」——2026年4月から定期接種がはじまります」)、高齢者向けの定期接種化はまだ決まっていません。接種できる医療機関は内科・呼吸器科・感染症科などです。他のワクチンとの同時接種の可否や接種間隔については、かかりつけ医に確認してみてください。
なお、お孫さんや生まれたばかりの赤ちゃんがいるご家族は、乳児向けの抗体製剤「ベイフォータス(ニルセビマブ)」という選択肢もあります。RSウイルスは乳児にとっても重症化リスクが高く、妊婦への母子免疫ワクチンと合わせて、家族全体で予防を考える時代になってきました。
接種を検討される方へ
60歳以上の方
日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本ワクチン学会は2025年12月の合同見解で、高齢者へのRSVワクチン接種を推奨しています。日本老年医学会も、65歳以上が接種を検討すべきワクチンの一つに位置づけています。特に肺疾患・心疾患・糖尿病・腎臓病などの基礎疾患がある方は重症化リスクが高く、優先度が上がります。
外来で「アレックスビーとアブリスボ、どちらがいいですか」と聞かれることが増えてきました。直接比較試験がないため明確な優劣はつけられませんが、選ぶときの目安はあります。
- 副反応をなるべく軽くしたい方は、アジュバントを含まないアブリスボが選択肢になります
- 50〜59歳で基礎疾患がある方は、その年齢で適応があるアレックスビーが選択肢になります
医療機関によって取り扱い製品が異なるので、まずはかかりつけ医に聞いてみてください。費用の負担は小さくありませんが、秋のワクチン接種シーズンにインフルエンザやコロナワクチンとあわせて考えてみる価値はあると思います。65歳以上の方は肺炎球菌ワクチン(PCV20)の定期接種や帯状疱疹ワクチンも対象になっていますので、まとめて相談するのがおすすめです。
RSウイルスは、高齢者にとっても注意が必要な呼吸器感染症として認識されるようになってきました。ワクチンという選択肢が使えるようになった今、知っておいて損はない情報です。接種するかどうかは、ご本人と医師の対話の中で決めていただければと思います。
参考文献
- Papi A, et al. Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults. N Engl J Med. 2023;388(7):595-608. doi:10.1056/NEJMoa2209604
- Walsh EE, et al. Efficacy and Safety of a Bivalent RSV Prefusion F Vaccine in Older Adults. N Engl J Med. 2023;388(16):1465-1477. doi:10.1056/NEJMoa2213836
- Ison MG, et al. Efficacy and Safety of Respiratory Syncytial Virus (RSV) Prefusion F Protein Vaccine (RSVPreF3 OA) in Older Adults Over 2 RSV Seasons. Clin Infect Dis. 2024;78(6):1732-1744. doi:10.1093/cid/ciae010
- Walsh EE, et al. Efficacy, Immunogenicity, and Safety of the Bivalent RSV Prefusion F (RSVpreF) Vaccine in Older Adults Over 2 RSV Seasons. Clin Infect Dis. 2026. doi:10.1093/cid/ciaf061
- Payne AB, et al. Respiratory Syncytial Virus Vaccine Effectiveness Against RSV-Associated Hospitalisations and Emergency Department Encounters Among Adults Aged 60 Years and Older in the USA. Lancet. 2024. doi:10.1016/S0140-6736(24)01738-0
- Fry SE, et al. Effectiveness and Safety of Respiratory Syncytial Virus Vaccine for US Adults Aged 60 Years or Older. JAMA Netw Open. 2025;8(5):e258322. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.8322
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- 日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本ワクチン学会. 成人のRSウイルスワクチンに関する見解. 2025年12月9日. https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/251211_rs_kenkai.pdf(参照日: 2026-03-23)
- 日本老年医学会. 65歳以上の成人で接種を検討すべきワクチン. https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/consider_vaccine.html(参照日: 2026-03-23)
- 厚生労働省. RSウイルスワクチン. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/rs/index.html(参照日: 2026-03-23)
- PMDA. アレックスビー筋注用 医薬品情報. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/631341NE1021_1?user=1(参照日: 2026-03-23)
- Wilson E, et al. Efficacy and Safety of an mRNA-Based RSV PreF Vaccine in Older Adults. N Engl J Med. 2023;389(24):2233-2244. doi:10.1056/NEJMoa2307079
- PMDA. エムレスビア筋注シリンジ 審議結果報告書. https://www.pmda.go.jp/drugs/2025/P20250526006/790314000_30700AMX00088_B100_2.pdf(参照日: 2026-03-23)
よくある質問
RSウイルスワクチンは何歳から打てますか?
RSウイルスワクチンの費用はいくらですか?定期接種ですか?
アレックスビーとアブリスボ、どちらを選べばいいですか?
RSウイルスワクチンの副反応はどの程度ですか?
RSウイルスワクチンの予防効果はどのくらいですか?
RSウイルスワクチンでギラン・バレー症候群になるリスクはありますか?
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