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マイコプラズマ・ジェニタリウム治療 2026年版 — 東京で dual-class 耐性 89.4% の時代、外来でどう判断するか

Tasunaro Tasunaro · 感染症専門医
更新 2026年5月31日
マイコプラズマ・ジェニタリウム治療 2026年版 — 東京で dual-class 耐性 89.4% の時代、外来でどう判断するか

外来で「クラミジアも淋菌も陰性なのに、3回目の通院でも尿道炎が治らない」と困った経験は、性感染症(STI)診療を行う医師ならどなたにもあるはずです。背景に Mycoplasma genitalium(MG)感染があり、しかも経験的に出したアジスロマイシンやモキシフロキサシンが効かない——という状況は、いま日本でも珍しいものではなくなりつつあります。

2025年末から2026年にかけて、M. genitalium 治療をめぐる重要な報告が相次ぎました。モキシフロキサシンの優越を示したミラノのRCT、その治癒率が経年で低下していることを示したメルボルンの10年データ、そして日本の耐性の厳しさを映した東京の単施設報告。この3本を並べると、いま私たちがどの曲がり角に立っているのかが見えてきます。

この記事では、2026年5月時点のエビデンスを束ね、耐性検査が普及していない日本の外来で「経験的に何を出すか・治癒確認をどうするか・失敗例で何に切り替えるか」を整理します。

この記事のポイント

東京でMGの dual-class(マクロライド+キノロン)耐性関連変異は89.4%に達している
FARTHEST試験はモキシフロキサシン87.0%対アジスロマイシン61.2%でモキシフロキサシン優越を示した
ドキシサイクリン「同時併用」は無効、「先行 sequential」は別戦略で有効。混同しないこと
失敗例の代替はシタフロキサシン単剤、ミノサイクリン+メトロニダゾール併用、スペクチノマイシン筋注の3択

「クラミジア陰性なのに尿道炎が治らない」— 外来でMGをどう疑うか

治療判断に入る前に、まず疑い方を確認しておきます。診療科ごとに遭遇場面は異なります。泌尿器科・一般内科では持続するNGU、婦人科では粘液膿性頸管炎・骨盤内炎症性疾患(PID)・原因不明の不妊精査、感染症診療では他STIが陰性の症候性感染が、それぞれ代表的な遭遇場面です。

MGは細胞壁を持たない極小の細菌で、男女ともに尿生殖器と直腸感染を起こす性感染症です。Mullis らが2026年にOpen Forum Infectious Diseasesに発表した narrative review(2015〜2025年の文献を精査)によれば、一般集団の有病率は1〜2%ですが、性感染症クリニック受診者ではより高く、若年女性や男性同性間性行為者(MSM)の直腸ではさらに高くなります。

臨床的に重要なのは、非淋菌性尿道炎(NGU)の約20%、子宮頸管炎の最大25%、PIDの約10%(メタ解析のプール値)でMGが検出されるという事実です。さらに、症状30日以上の慢性NGUではMGとの関連がOR 91と圧倒的に強くなります。

米国疾病予防管理センター(CDC)2021年ガイドラインは無症候者へのルーチン検査を推奨せず、検査適応を次のように絞っています。

  • 再発性・持続性のNGU(非淋菌性尿道炎)
  • 再発性・持続性の子宮頸管炎
  • 骨盤内炎症性疾患(PID)

ただし、Mullis レビューは「ある米国医療システムでクラミジア・淋菌・トリコモナス検査と同時にMG検査が実施されたのはわずか1.7%」と過小診断の現実を指摘しています。クラミジア・淋菌が陰性で症状が続く症例は、MG感染の代表的なシグナルとして頭に置いておく必要があります。

ここまでが疑い方の前提です。次の章からは、なぜいま「経験的にどの薬を出すか」が判断難になっているのか、3本の最新報告を起点に整理していきます。

第一の現実:マクロライド耐性は世界で50%超、東京では94.4%

MGに対する治療困難の根本にあるのは、マクロライド耐性の世界的な蔓延です。アジスロマイシンは2010年代まで第一選択でしたが、23S rRNA遺伝子の点変異(A2058G・A2059G など)で耐性化し、Mullis 2026 レビューは「世界的に耐性率は50%を超え、ハイリスク集団では80%超」と報告しています。

問題は、日本のデータがこの世界水準よりさらに厳しい点です。Omachi らが2026年にAntimicrobial Agents and Chemotherapyに発表した東京の188検体/162患者の解析では、マクロライド耐性関連変異(23S rRNA)はほぼ全株に、キノロン耐性関連変異も parC S83I を中心に高頻度(gyrA も22.5%)に検出されました。両クラスの耐性関連変異を併せ持つ dual-class 株は約9割に上ります。とくに重い数字を4つ並べると次のとおりです。

94.4%
マクロライド耐性関連変異(23S rRNA)
Omachi 2026 AAC・東京 188検体
65.5%
キノロン耐性関連変異:parC S83I
Omachi 2026 AAC
89.4%
dual-class 耐性関連変異(マクロライド+キノロン)
Omachi 2026 AAC
52.4%
dual-QRMs群のキノロン治療失敗率
vs 単一耐性群 23.5%(P=0.016)

東京のMG株の約9割がマクロライド・キノロン両方の耐性関連変異を持つということは、経験的にアジスロマイシンを出した時点で第一選択が外れる可能性が高いことを意味します。さらに、parCgyrA の両方にキノロン耐性変異を持つ dual-QRMs 群では治療失敗率が52.4%に達し、経験的なモキシフロキサシンも安全圏ではありません。

東京のこの数字は、世界的に見ても突出しています。Chua らが2025年にLancet Microbeで報告した41か国・約2万3千検体の最新メタ解析では、両クラス耐性の世界平均は6.5%でした。東京のデータは都市部受診者中心の単施設報告であり、地方の耐性背景は異なる可能性があります。それでも、性感染症対策の本丸である首都圏でこの数字が出ている事実は重く受け止める必要があります。世界的な薬剤耐性(AMR)の構造の中で、M. genitalium は最も急速に手詰まりに近づいている性感染症の1つと位置付けられます。

Mycoplasma genitaliumのdual-class耐性(マクロライド+キノロン)の比較。世界平均6.5%に対し東京は89.4%と突出して高い

では、この耐性株を相手に実際にモキシフロキサシンを出すと、何が起こるのか。ここからは、地域によって期待値が大きく揺れるモキシフロキサシンの実力を見ていきます。

第二の現実:モキシフロキサシンの優越は地域の耐性背景で揺れる

2026年5月、M. genitalium 治療をめぐる重要な2本が公表されました。1本目はモキシフロキサシンの優位を示し、2本目はその治癒率が経年で低下していることを示しています。両者は矛盾していません。同じ薬を「いま使えば優越・ただし放っておけば効かなくなる」という状況を別の角度から記述しています。

1本目: FARTHEST試験(Rossotti ら、2026年Clinical Infectious Diseases掲載)

ミラノのNiguarda病院で実施された単施設・非盲検の無作為化対照試験で、MG陽性358名をモキシフロキサシン400 mg/日×10日とアジスロマイシン500 mg/日×6日に1:1で無作為に割り付けました。耐性検査なしで投与した結果、治癒率は次の通りでした。

  • モキシフロキサシン群: 87.0%
  • アジスロマイシン群: 61.2%
  • 絶対リスク差: +25.8%(95%信頼区間 16.5〜35.2)

副次解析では、アジスロマイシンが同等の有効性を示したのは異性愛者サブグループのみで、それ以外の集団ではすべてモキシフロキサシンが優越しました。ドキシサイクリンの同時併用は治癒率を改善せず、抄録上は中止例が1例のみで、両レジメンとも忍容性は概ね良好でした。

2本目: メルボルン性健康センター(MSHC)10年データ(Matthews ら、2026年Journal of Infectious Diseases掲載)

2015〜2024年の5,739件のMG感染を解析した観察研究で、モキシフロキサシンの使用率と治癒率の経年変化を追いました。

  • モキシフロキサシン使用率: 6.7%(2015年)→ 60.3%(2023年)
  • モキシフロキサシン治癒率: 100%(2015年、11/11)→ 79.3%(2023年、238/300)
  • ParC-S83 検査の導入後(2024年)には、モキシフロキサシン使用率は60.3%(2023年)→49.2%に低下し、ParC-S83 wildtype例の治癒率は79.3%→89.2%に上昇しました(P=0.013)

使えば使うほど耐性株が増え、検査ガイド治療を導入することで治癒率が回復する。抗菌薬適正使用の典型的な構造が10年スパンで可視化されています。

3地域を並べると、経験的に出すモキシフロキサシンへの期待値の地域差が見えてきます。

地域試験/コホート期間モキシフロキサシンの治療成績
ミラノFARTHEST RCT(N=358)2026年公表87.0%(10日間レジメン)
メルボルンMSHC観察研究(N=5,739)2015〜2024100% → 79.3%(経年低下)
東京Omachi 観察研究(N=188)2023〜2025dual-QRMs群で治療失敗 52.4%

FARTHEST試験の87%という数字は強力な結果ですが、ミラノと、メルボルン・東京では母集団の耐性背景が違います。日本の都市部でFARTHEST結果をそのまま再現できる保証はありません。「いまならまだ効く」と「もう効かない」のあいだのグラデーションが、私たちが今日の処方で迷う背景にあります。経験的投与の選択は、目の前の患者を治す責任と、フルオロキノロンを地域全体で温存する責任のあいだで取られる判断にもなっています。

薬を「選ぶ」話の次は、「組み合わせる」話です。ドキシサイクリンの併用をめぐる、戦略の分かれ目に進みます。

第三の現実:「ドキシサイクリン同時併用」と「ドキシサイクリン先行 sequential」は別の戦略

ここで臨床現場で最も混同されがちな論点を整理しておきます。FARTHEST試験のサブグループ解析では、ドキシサイクリンの同時併用による治癒率の上乗せは認められませんでした。一方で、Htaikら(メルボルン)、Kobori ら(日本)、Yuan ら(中国・南京)の研究では「ドキシサイクリン先行 sequential 投与は治癒率を高める」と報告されています。両者は対立する結果ではなく、別戦略です。

ドキシサイクリンの「同時併用」と「先行(sequential)」の違いを示すタイムライン図。同時併用はドキシサイクリンとモキシフロキサシンを1日目から重ねて投与し治癒率の上乗せはない。先行はドキシサイクリンを7日間先に投与して菌量を下げてからモキシフロキサシンに切り替え、治癒率が上がる

外来でやりがちな処方パターン

「クラミジア治療として出したドキシサイクリンに、モキシフロキサシンを並行で7日間処方する」「アジスロマイシン2.5gレジメンを実行する際にドキシサイクリンを同時投与する」——いずれも同時併用パターンで、FARTHEST試験では治癒率の上乗せは確認されませんでした。

一方、ドキシサイクリン7日間を先行投与し、菌量を下げてからモキシフロキサシンまたはシタフロキサシンに切り替える逐次(sequential)療法は、Htaik・Kobori・Yuanらの研究で有効性が示されています。投与する薬剤は同じでも、「同時併用」と「先行→切り替え」では別の戦略になります。

機序の違いを整理すると次のようになります。ドキシサイクリンを最終殺菌薬と同時併用しても、臨床的な上乗せ効果はFARTHEST試験で示されませんでした。これに対して先行 sequential は「ドキシサイクリンで菌量を1〜2 log 下げてから最終殺菌薬を投与する」という発想で、抗菌薬適正使用の観点でも理解しやすい設計です。

国際的な耐性検査ガイド療法の流れも、この sequential 構造を前提にしています。CDC 2021ガイドラインは「ドキシサイクリン7日間 → マクロライド耐性検査 → 耐性なしならアジスロマイシン 2.5 g、耐性ありならモキシフロキサシン400 mg×7日」を推奨しています。FARTHEST試験はこの「ドキシサイクリン先行」までを否定したものではなく、「最終薬とドキシサイクリンを同時に投与しても上乗せ効果は出ない」ことを示した試験です。

「ドキシサイクリンは効果がない」と短絡せず、前段か並列かで戦略を切り分けることが、論文を読み解くうえでも臨床判断でも重要になります。

ここまでが「戦略の使い分け」の整理です。次の章では、もし最初の手が空振りした時に何を打てるか、日本の外来で実装可能な選択肢を見ていきます。

第四の現実:日本の外来で取れる現実的な選択肢

経験的に出したモキシフロキサシンが効かなかった、あるいは耐性背景から最初から代替を考えたい。この状況で、日本の外来で実装可能な選択肢を整理します。

1. シタフロキサシン(日本独自の選択肢)

シタフロキサシン(商品名 グレースビット)はフルオロキノロン系の国内開発薬で、parC S83I変異株に対しても残存活性を示す報告があります。同じフルオロキノロンでもモキシフロキサシンが外れる株に効きうるのは、シタフロキサシンが M. genitalium に対してより低いMICを示す強力な薬剤で、parC S83I 単独変異なら阻害しきれるためです。ただし parCgyrA 変異が加わった dual-QRMs 株では効果が落ちると報告されており、その場合はミノサイクリン+メトロニダゾール併用などへの切り替えを検討します。

添付文書の適応症に「尿道炎」「子宮頸管炎」を持ち、その枠組みで保険診療上使用できる国内経口薬です。ただし適応菌種に明示されたマイコプラズマは肺炎マイコプラズマ(M. pneumoniae)で、M. genitalium 個別の記載ではない点には留意が必要です。

Kobori らが2025年にInternational Journal of Urologyで報告したミノサイクリン先行+シタフロキサシン逐次療法の比較試験は、日本で再現可能なレジメンを示した数少ない論文です。中国の Yuan らの2025年Sexually Transmitted Diseases論文も、ドキシサイクリン → シタフロキサシン sequential の有効性を支持しています。

フルオロキノロンの効き方が耐性段階で変わることを示す図。キノロン感受性ではモキシフロキサシン・シタフロキサシンとも有効、parC S83I単独変異ではモキシフロキサシンは失敗しやすいがシタフロキサシンは効きうる、parC+gyrA(dual-QRMs)ではモキシフロキサシンは無効でシタフロキサシンも限定的。シタフロキサシンはparC単独を乗り越えるがgyrAが加わると失速する

2. ミノサイクリン100 mg + メトロニダゾール400 mg を1日2回×14日(マクロライド耐性+キノロン失敗例向け)

Htaik らが2025年にJournal of Antimicrobial Chemotherapyで報告したメルボルンの前向きコホート(N=104)では、この併用レジメンで全体治癒率80.8%(95%信頼区間 71.9〜87.8)が得られました。先行ドキシサイクリン群では数値上90.3%まで上昇していますが、症例数が小さくP=0.172で有意差はなく、仮説生成的な所見にとどまります。

ミノサイクリンも適応症「尿道炎」を持ち、その枠組みで保険診療上使用できます(適応菌種に明示されたマイコプラズマは肺炎マイコプラズマで、M. genitalium 個別の記載ではありません)。この併用でメトロニダゾールを加える科学的根拠としては、Wood らが2023年にAntimicrobial Agents and Chemotherapyで報告した、ニトロイミダゾール系(メトロニダゾールなど)のM. genitaliumに対するin vitro殺菌活性があります。

ただしメトロニダゾールはM. genitalium感染症への適応がなく、本レジメンでの併用は適応外使用となるため、患者への事前説明が必要です。注意点は、めまい・頭痛などの中枢神経系副作用と消化器症状が多く、こちらもインフォームドコンセントが欠かせません。

3. スペクチノマイシン筋注(最終の砦)

Nagase らが2025年にJournal of Infection and Chemotherapyで報告した国立国際医療研究センターの4症例は、フルオロキノロン治療失敗例に2 g 筋注を連日7日間投与し、4例中3例で除菌成功という結果でした。スペクチノマイシンのMGへの使用報告自体が乏しく、用量・期間は今後の集積を待つ段階です。スペクチノマイシンは日本では淋菌感染症への適応のみで M. genitalium への保険適応はなく、入手も限られた病院薬剤部に依存します。「最後の砦」として頭の片隅に置いておく薬剤です。

4. プリスチナマイシン(参考)

欧州の一部で使用されていますが、日本では未承認・未流通のため臨床選択肢には入りません。

外来診療時に参照しやすいよう、上の4選択肢を1枚にまとめた早見表を置いておきます。詳細は本文の各節を、現場での判断時はこの表を、と使い分けてください。

薬剤用量国内の保険適応副作用注意
モキシフロキサシン400 mg/日 × 10日適応外使用QT延長・腱障害
シタフロキサシン100 mg × 2回/日 × 7日適応症で使用可 ※1頭痛・低血糖
ミノサイクリン + メトロニダゾール各 100/400 mg × 2回/日 × 14日一部のみ使用可 ※2CNS・GI症状
スペクチノマイシン2 g 筋注・連日7日間 ※3適応外使用注射部位疼痛
  • ※1 シタフロキサシン:尿道炎・子宮頸管炎の適応症で使用可。ただし適応菌種にMGの明示はない。
  • ※2 ミノサイクリンは尿道炎の適応症で使用可(適応菌種にMGの明示なし)。メトロニダゾールはMGには適応外。
  • ※3 スペクチノマイシン:用法は症例報告レベルの報告に基づく。適応は淋菌感染症のみで、MGへの使用は適応外。

正直なところ、選択肢は限られています。「治らないMG」の症例に出会ったとき、感染症専門医や性感染症外来をもつ施設への紹介ルートを事前に確保しておくこと。これが、外来診療では最も現実的な備えになります。

ただ、紹介ルートを準備することと同じくらい大切なのは、目の前の患者にかける言葉です。検査で何が分かり、何が分からないか。今回の治療が効かなかった時に次に何を打てるか。パートナーに何をどう伝えればいいか。治療がうまくいかない時ほど、医師の言葉が患者の不確実性を抱える支えになります。

2026年現在の臨床判断フロー

ここまでの整理を踏まえ、2026年5月時点の臨床判断フローを整理します。

検査適応の判断+既治療歴の確認
再発性・持続性NGU、再発性・持続性の子宮頸管炎、PID、クラミジア/淋菌陰性の持続・再発感染を対象に核酸増幅検査(NAAT)を提出します。可能であれば耐性関連変異(23S rRNA・parC S83I)の同時検査ができるラボを選んでください。あわせて、他院での前治療を含めた直近のマクロライド・フルオロキノロン曝露歴を必ず確認します。直前に何を何日使ったかが次の選択を決めます。
第一選択(耐性検査結果がある場合)
マクロライド感受性ならアジスロマイシン2.5 gレジメンに切り替えます。マクロライド耐性ならモキシフロキサシン400 mg/日×7〜10日へ。parC S83I陽性ならシタフロキサシン、またはミノサイクリン+メトロニダゾール併用へ切り替えます。

アジスロマイシン2.5 g レジメンの中身

CDC 2021ガイドラインが示すアジスロマイシン2.5 gレジメンは、ドキシサイクリン100 mg 1日2回×7日間で菌量を下げた後、アジスロマイシン1 g 単回 → 500 mg/日×3日(合計2.5 g)を投与する逐次療法です。「2.5 g」はアジスロマイシンの総量で、ドキシサイクリンを含めた一連の治療として運用します。

第一選択(耐性検査が取れない場合)
CDC 2021ガイドラインに沿うならドキシサイクリン7日間で菌量を下げた後、モキシフロキサシン400 mg/日×7日へつなぐ二段階治療が基本形です。一方、FARTHEST試験では耐性検査なしの条件でモキシフロキサシン400 mg/日×10日がアジスロマイシンに優越しており、日本の外来ではこの結果を参考にモキシフロキサシン10日間を現実的選択肢として検討します。東京の耐性背景を踏まえれば、治療失敗の可能性は事前に説明しておきます。また、既治療でフルオロキノロンが投与されていれば、最初からシタフロキサシンやミノサイクリン+メトロニダゾール併用を検討することも一案です。
治癒確認(TOC)
CDC 2021ガイドラインは推奨レジメンで治療された無症候者へのルーチンTOCを推奨していません。一方、日本の耐性背景を踏まえると、症状持続例・再感染リスクがある例・代替レジメンを用いた例では、治療終了21〜28日後のNAAT再検査を検討します。早すぎる再検査は死滅した菌の核酸を検出して偽陽性となりうるため、一定期間あけるのがポイントです。陽性であれば再感染と耐性株の両方を考え、代替レジメンや専門施設紹介を検討します。
失敗時の切り替え
ミノサイクリン+メトロニダゾール併用14日 → スペクチノマイシン筋注 → 専門施設へ紹介の順で代替戦略を組みます。同時にパートナー治療と再曝露の有無の確認も並行してください。
パートナー治療と再感染の切り分けを示す図。患者とパートナーの間で再感染(ピンポン感染)が起こるためパートナーも同時に治療する。治癒確認(TOC)陽性のときは耐性による治療失敗か再感染かを切り分ける

パートナー治療と「治療失敗 vs 再感染」の切り分け

本人の治癒率をいくら上げても、パートナーが未治療のままでは再感染(ピンポン感染)で振り出しに戻ります。現在の性パートナーは検査結果を待たず、本人と同じレジメンで同時に治療するのが原則です。

米国で再感染対策として用いられる EPT(expedited partner therapy・本人を介してパートナー分の薬を渡す方式)は、日本では制度的に確立しておらず、パートナー自身の受診を促すのが現実的です。

TOC が陽性だった時は、「耐性による治療失敗」なのか「再感染」なのかを切り分けます。パートナー治療が完了していて再曝露がなければ耐性失敗を、パートナーが未治療または新たな曝露があれば再感染を先に考え、次の一手(代替レジメンへ変更するか、同一レジメン+パートナー治療か)を選びます。

耐性検査ガイド療法という枠組み自体は、メルボルンの一連の前向き研究に裏打ちされています。Read らは2019年にClinical Infectious Diseasesで、耐性検査に基づく逐次治療が高い耐性環境でも治癒率92%以上を達成できることを示し、Vodstrcil らは2022年に同誌で、parC 変異の検出がモキシフロキサシン失敗の予測に有用であることを定量化しました。CDC 2021ガイドラインの基本構造(ドキシサイクリン先行 → 耐性検査 → 耐性に応じて薬剤選択)は2026年でも依然として骨格として有用です。FARTHEST試験は「耐性検査が取れない現実」への現実的な解として位置付けるのが妥当でしょう。

日本の課題と、これから

個人の判断だけでは超えられない構造的課題が3つあります。検査アクセス、ガイドライン、代替薬の入手性。どれも一医師の処方判断より上のレイヤーで動く話ですが、現場の小さな行動が積み重なって動くレイヤーでもあります。

耐性検査アクセス

parC S83I PCR や 23S rRNA変異解析は、国内では限られた研究機関と一部の商業ラボでしか実施できません。メルボルンが ParC-S83 assay 導入で治癒率を10ポイント改善できた経験は、検査アクセスの拡大が治療成績の改善と関連しうることを示しています。国内のリファレンスラボや感染症専門学会主導での体制整備が必要です。現場の医師としては、自施設や近隣ラボで MG NAAT・耐性関連変異検査がどこまで実施可能かを今のうちに棚卸ししておくことが第一歩になります。

ガイドラインの整備

国内ガイドラインにおける M. genitalium の扱いは現在も更新が進んでいますが、耐性ガイド療法の実装手順や、メトロニダゾール併用・スペクチノマイシンといった適応外使用のコンセンサスは、依然として現場任せに残されています。国際的には、米国CDC 2021に加え、欧州では Jensen らが2021年版の IUSTI/EADV ガイドラインで耐性検査ガイド療法や薬剤選択アルゴリズムを明文化しており、国内のコンセンサス整備の遅れが対比的に際立ちます。学会主導でのコンセンサス文書が、現場医師の判断を支える基盤として求められます。性感染症学会・感染症学会のパブリックコメントや専門医会の議論に意見を返すことも、ガイドライン更新に現場の声を反映させる一歩になります。

代替薬の入手性

シタフロキサシン・ミノサイクリンは国内入手可能ですが、スペクチノマイシンは病院薬剤部の在庫頼り、プリスチナマイシンは未流通です。患者数が少ない疾患の代替薬を確保するためには、希少疾病用医薬品的な制度的支援も視野に入る議論かもしれません。自施設の薬剤部とスペクチノマイシンの採用・取り寄せ可否、紹介先施設の代替薬対応を事前に把握しておくと、いざという時の判断がスムーズです。

外来で「治らないMG」に出会うことは、もう例外ではありません。経験的な第一選択の選び方・治癒確認のタイミング・失敗例の切り替えルート、この3つを2026年版にアップデートしておくことが、性感染症診療を続けるうえでの最低限の備えになります。


ひとりで抱え込まないこと。耐性検査・代替薬・専門施設というインフラを共有財として育てること。M. genitaliumの2026年は、性感染症診療に関わる医師にとって、個人技から仕組みへ視座を上げるタイミングなのかもしれません。


参考文献

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よくある質問

Mycoplasma genitaliumはどんな患者で疑えばよいですか?
クラミジア・淋菌が陰性なのに尿道炎・子宮頸管炎・骨盤内炎症性疾患(PID)が続く症例、特に治療後も症状が消えない持続例で疑います。米国疾病予防管理センター(CDC)2021年ガイドラインは無症候者へのルーチン検査を推奨せず、再発性・持続性のNGUと子宮頸管炎、およびPIDを検査適応としています。
クラミジアと一緒に治療すれば M. genitalium もカバーできますか?
原則としてカバーできません。クラミジアの第一選択であるドキシサイクリン7日間だけでは、M. genitalium の除菌薬としては不十分です。アジスロマイシン2.5gも世界的に耐性化が進んでいます。クラミジア治療後に症状が残る場合は別ルートで M. genitalium 検査と治療判断が必要です。
モキシフロキサシンを経験的に投与してもよいですか?
地域の耐性背景によります。2026年5月のFARTHEST試験では検査なしのモキシフロキサシン10日間で87.0%の治癒率が示されました。一方でメルボルン性健康センターの2023年データは79.3%まで低下、東京の最新報告ではキノロン耐性関連変異が65.5%を占めます。経験的投与は可能ですが、症状持続例や治療失敗リスクが高い例では治療終了21〜28日後のNAAT再検査を検討し、失敗例の代替戦略をあらかじめ準備しておくことが前提です。
ドキシサイクリンを併用すれば治癒率は上がりますか?
同時併用は効果が示されていません。FARTHEST試験ではモキシフロキサシン・アジスロマイシンへのドキシサイクリン同時併用は治癒率を改善しませんでした。一方でドキシサイクリンを先行投与してから最終薬を投与する逐次(sequential)療法は別戦略で、メルボルンや中国の研究で有効性が示されています。「同時併用」と「先行投与」は別物として整理する必要があります。
シタフロキサシンは日本で保険で使えますか?
シタフロキサシン(グレースビット)の添付文書には適応症「尿道炎」「子宮頸管炎」が含まれ、これらの枠組みで保険診療上使われています。ただし適応菌種として明示されているマイコプラズマは肺炎マイコプラズマ(M. pneumoniae)で、M. genitalium が菌名として個別記載されているわけではありません。同様にミノサイクリンも適応症「尿道炎」を持ちますが、適応菌種は肺炎マイコプラズマです。両薬とも『M. genitalium という菌名で承認された薬』ではなく、『尿道炎・子宮頸管炎の適応症の枠で使える国内経口薬』と理解するのが正確です。一方、スペクチノマイシンは淋菌感染症への適応のみで、M. genitalium への使用は適応外となります。

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Tasunaro
Tasunaro
感染症専門医
日本感染症学会専門医抗菌化学療法指導医国際渡航医学会認定医DTM&H

医師になって10年以上、感染症の診療を続けています。 査読論文や医学書の執筆経験を活かし、最新のエビデンスに基づいた情報をお届けします。

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本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療の代替となるものではありません。